社員がうつになったら、まず休ませる。連絡は「支援」にならないことがある
うつ状態で休んでいる社員に、会社の人が善意で連絡を取り続けることは、本人にとって回復の助けではなく、負荷になる場合があります。
もちろん、会社側にも事情があるのはわかります。状況を把握したい。復帰時期を知りたい。心配していることを伝えたい。けれど当事者としての私の感覚で言うと、その「普通の連絡」が、かなりしんどいんですよね。
休職中の「最近どう?」がつらかった
うつ病の急性期に近い時期、私は本当になにもできませんでした。
ご飯を食べる。薬を飲む。寝る。
生活というより、なんとか一日を通過しているだけでした。
そんなときに会社の人から「最近の体調はどう?」「最近なにしてるの?」と聞かれると、相手に悪気がないのはわかるんです。むしろ気にかけてくれている。そこは頭では理解していました。
でも、答えようがないんですよ。
「飯食って薬飲んで寝てるだけです」とは言いにくい。元気そうに返せる状態でもない。かといって、正直に言えば相手を困らせる気もする。
そうすると、たった一通の連絡で、頭の中にいろんな声が出てきます。
早く良くならないといけない
心配をかけてはいけない
会社に迷惑をかけている
この年齢で、なにをやってるんだろう。
これ、会話としてはものすごく普通なんです。でも、受け取る側の体調が普通じゃない。だから普通の会話が、普通に重い。
善意の連絡が、会社を思い出させる
上司や同僚からの連絡は、内容がやさしくても「会社」からの連絡です。
会社の現状を聞かされる。職場の話が出る。軽い世間話をされる。体調を気遣われる。
健康なときなら、どれもたいした話ではありません。けれど休職中の当事者にとっては、社会参加している人との普通の会話そのものがきついことがあります。
私は「会社に戻らなきゃいけない場所」として反応してしまっていました。
だから、優しい言葉でも、そこに会社の気配があるだけで体がこわばる。返信を考えるだけで疲れる。電話に出られなかった自分を責める。
連絡した側は「心配しているだけ」でも、受け取る側では「早く治れという圧」に変換されることがあるんですよね。
これは、どちらかが悪いという話ではありません。
ただ、うつ状態のときは、受け取る力がかなり落ちています。善意を善意のまま受け取る体力すら残っていないことがある。
必要な支援は、気持ちより手続きだった
私の場合、会社側が傷病手当などの手続きをかなり進めてくれる会社でした。ここは、かなり助かった部分です。
なので「会社は何もするな」と言いたいわけではありません。
むしろ、やるなら感情的な声かけより、制度面の支援を淡々とやってほしい。
休職に必要な書類を整える。期限を明確にする。本人が書く欄を最小限にする。必要な連絡は窓口を一本化する。返信期限を急かさない。
こういうことのほうが、当事者にはずっとありがたいです。
一方で、会社外の手続きはしんどかったです。自立支援医療などは自分で進めないといけない部分があり、「役所に自分で行く」という一点だけでもかなりきつかった。
手書きも地味にしんどいんですよ。
体力的にもつらいし、精神的にもくる。特に年齢を書く欄があるたびに、「この年でなにやってるんだろう」と情けない気持ちになっていました。
書類の一行が、ただの一行じゃないんです。
そこに自分の失敗感とか、申し訳なさとか、社会から落ちたような感覚が乗ってくる。
だから企業側ができる支援は、励ますことより「本人が処理しなければいけない負荷を減らすこと」だと思います。
連絡するなら、AIみたいでいい
もし本当に連絡が必要なら、私はかなり機械的でいいと思っています。
冷たくしろという意味ではありません。
必要なことだけを、短く、明確に、返信負荷を少なく伝えるということです。
たとえば、こんな感じです。
「体調への配慮として、業務状況の確認は行いません。手続き上必要な点だけご連絡します。返信は急ぎません」
「提出が必要な書類はこの1点です。難しい場合は代理対応できる範囲を確認します」
「今後の連絡窓口は人事の〇〇に一本化します。上司・同僚から個別連絡はしません」
最初か最後に「体調を気遣ってのことです」と一言添えれば、冷たさはかなり減ります。
大事なのは、雑談で安心させようとしないことです。
うつ状態のとき、雑談は雑談にならないことがあります。相手の期待を読もうとしてしまう。元気そうに見せようとしてしまう。復帰の空気を感じ取ってしまう。
だったら、必要事項だけでいい。
変に人間味を出そうとしないほうが、結果的にやさしい場面もあります。
企業が決めておくとよいこと
企業側におすすめしたいのは、休職者への連絡ルールを「上司の人柄」に任せないことです。
上司が優しい人でも、忙しい人でも、対応が属人的になると当事者側は不安定になります。
最低限、次のようなルールを事前に決めておくといいと思います。
休職中の連絡窓口を一本化する
上司や同僚からの個別連絡は原則しない
体調確認や復帰時期の確認は、必要に応じて産業医・人事・主治医の意見を踏まえる
連絡は手続きに必要な内容だけにする
返信不要、または返信期限に余裕がある形で送る
本人が希望する連絡手段を確認する
復帰の話は、本人の状態と医療・産業保健側の判断を急かさない
これは、当事者にだけ優しいルールではありません。
上司にとっても助かるはずです。
「様子を聞いてこい」と上から言われる。良くないとわかっていても、仕事として連絡せざるを得ない。そういう状況は、上司側にもストレスがかかります。
だからこそ、会社としてルールにしておく。個人の優しさに頼らず、仕組みで守る。
メンタルヘルス対応って、結局ここが大事なんだと思います。
休ませることは、放置ではない
「一切連絡するな」と言うと、放置のように聞こえるかもしれません。
でも私が言いたいのは、無関心になれということではありません。
本人の回復を邪魔しない距離を、会社側がきちんと設計してほしいということです。
休ませる。制度を使えるようにする。手続きを軽くする。必要な情報だけ届ける。復帰の判断を急かさない。
これは、かなり積極的な支援です。逆に、心配だからと何度も連絡することが、本人を追い詰めることもある。
私自身、うつ病になってから「善意って、受け取る側の体力があって初めて善意として機能するんだな」と感じました。
だから企業の方に伝えるなら、こう言いたいです。
社員がうつで休むことになったら、まずはしっかり休ませてください。
そして、会社の不安を本人に処理させないでください。
本人の状況を知りたい気持ちはわかります。でも、その確認のために本人の回復を削ってしまうなら、支援としては逆効果になりかねません。
会社ができることは、案外シンプルです。
連絡を減らす
手続きを助ける
復帰を急がせない
この3つだけでも、当事者側の負担はかなり変わると思います。少なくとも、私はそう感じてきました。
私は医療者ではなく、うつ病を経験してきた当事者として話しています。だからこそ、制度や正論の隙間で本人が何に傷つき、何に助けられるのかを、かなり具体的に話せると思っています。
必要があれば、企業研修や講演でも、こうした当事者視点のメンタルヘルス対応についてお話しできます。
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